戸田響子さんの『煮汁』を読み終えたら、そのまますぐ短歌に向き合いたくなって五首ほど歌をつくった。そのため感想をまとめるまでにちょっと間が空いてしまった。
良い歌集は、短歌力(たんかぱわー)をチャージしてくれるごちそうみたいなものだと思っている。短歌力(たんかぱわー)のチャージにも相性があって、非常に良い歌集とされていても、この用途において自分に効かないこともある。
『煮汁』、オカルト歌人の戸田響子さんも、昭和感というかノスタルジックな空気を運んでくる戸田響子さんも、日常から繊細な歌をうむ戸田響子さんもいて、あふれ出してる~という感じがした。
好き!の付箋、いっぱいついた。
以前に読んだことがあるのにまた好き!の付箋付けちゃう歌も多かった。記憶に残るぐらい好きってことなのかな、と思う。
あと、作品ごとのタイトルも独特なので、目次をみたとき声でちゃった。
①
インパクトがあって、不思議で、でもそれだけではない歌。
オカルトに限定されない不可思議なものを察知する感覚の歌。
その中でもわたしが好きなのをいくつか挙げてみる。
『煮汁』「アスパラガスを握りしめ」から
人間の記憶はあいまいリカちゃんのお尻はきちんと割れてましたか
やめろやめろーと月に向かって叫んでる男の手にはアスパラガスが
泡をふき惨事のように沈みゆく入浴剤をじっと見送る
「オカルト雑誌のある部屋」から
エサが欲しいわけではなくて鯉たちの口の動きが送る警告
「ラーメンでつながっている」から
ラーメンの湯気立ち昇りこの麺はどこか遠くにつながっている
「正月もスクワットしろ」から
バラバラになってもバナナはバナナなのにテープで房を固定する父
②
日常のなかのささやかなことを繊細な視線で詠んだ歌。
時にノスタルジックであったり、あるいは今の現実の中でも、ああそうそうそうだよなあと思うような歌。
「拾いながらゆく」から
電話の横のお菓子の缶に増えてゆくインクが切れたボールペンたち
裏の白いチラシとそうじゃないチラシ分けているとき羽虫が横切る
駅前でポケットティッシュを受け取った目は合わないのに触れる指先
「やわらかく変わる」から
たんぽぽを探せば意外と見つからず名前を知らない草花を踏む
(これは後に書く③詩的な気持ちを呼び起こす歌にも入ると思う)
「多重露光」から
銀行のカウンターには「オレ」「オレ」と書かれたうちわが何本も立つ
「わいふぁい」から
夜道にてテレビの音がはっきりと聞こえてきたから夏が始まる
「この街の海」から
よく知らない実がなっているなんだろう そういうことを毎日忘れる
①を「ワンダー」としたら、②は「共感」に近いようだけれど、そこの具合は読者にゆだねられてるところなのかな、そもそも分類することないのかも~…とも思うけど、好きな歌をだだだだと列挙するのもわかりにくいかと思ったので、ブログの中で推したい歌を分けて挙げてるだけ、ということで。
③
詩的な気持ちを呼び起こす歌。
わたしは、ここに入るタイプの歌に強く惹かれたなぁ。
「オカリナが聞こえたら」から
きみとゆく旅路はアップルロリポップ悪路であればいいと願って
きみのいた世界からいない世界へとスライドしていく音がしている
(はー、このシンプルな表現が美しくて、好き!)
「やわらかく変わる」から
シャープペンシル何度もノックをして芯の危うさを見てそっと戻して
「きみを追う」から
かみさまの言葉を忘れてゆく子供擬音をつかわず「かみなり」という
「多重露光」から
早朝は夢も現実も同じものトーストに降るシナモンシュガー
ほつほつとコーヒーメーカーから落ちる黒いしずくのような戸惑い
ひるがえるスカーフのように去る猫のひらがなめいた足の残像
アルコール消毒液を手に受ける小さなくしゃみのようなささやき
「たなかさんちのじてんしゃがじゃま」から
忘れてたそれはスライスチーズからフィルターを外す呪文であった
(これは非常に好き!どんな、呪文な、の??)
「訃報」から
ではまたと締めくくったらさみしくて手紙の端に添えるくまの絵
・・・また長くなってしまった。好きな歌集から歌を選んで紹介するのって、めちゃ楽しい。
長々と読んでくださって、ありがとうございます。
この一冊のなかにも、いろんな戸田響子さんがあふれてるから、どこを切り取って好きというかは人によって違うのだろうなあ。あと勝手に3つのタイプに分けてみたけど、余計なことで、そのまま受け取ればよいのかな、とも思う。
戸田響子さんには戸田響子さんの世界があって、それを表現する術を身につけた人はきっと強い、と思う。
第二歌集はどう来るのかな、って今からもう楽しみだなー。