恋を語る歌人になれなくて

2016,5月 LINEで送信したメッセージを「それは短歌だよ」と教えてもらったことをきっかけに、短歌な世界に引き込まれて行く。おそーるおそーるな一歩一歩の記録。

「子宮を捨てる」連作にまとめました

昨年秋、入院前から入院中あたりに病室で詠んでいた歌をすこし差し引いてお直しして、連作にまとめてみました。よかったらお読みくださりませ。


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子宮を捨てる    森緑


年老いた母の運転に身をあずけ病院まで聴くかすれたラジオ

病院の待合い室のチャンネルを韓国ドラマに勝手に変えるな

手術する決心を先に延ばしたく、おうどんのつゆしずしずと飲む

デフォルトで子宮を付けてくれずともわたしは困らず生きられたのに

卵巣も子宮もすっぽり投げ出してそこらの犬にくれてやりたい

最後まで生理は痛い半月後まるごと子宮を切り捨てるのに

人生で最後の生理が終わっても起立して待つ余ったタンポン

手術まであと何日と数えてる傷ひとつない全裸を映す

三日後の手術を思うまっしろなニベアで腹に描く一文字

お隣の見舞いの子らが騒がしい明日わたしは子宮を失くす

麻酔医が松本零士のアニメキャラみたいで消毒前に泣き出す

一瞬の意識の途切れは六時間「寒い」と言いつつこの世に戻る

高熱で英語しか出て来なくなり酸素マスクは外れたままで

朝五時の集中治療室でひとり「おぎゃあ」の声と歓声を聞く

腹を開け石を詰められ投げ込まれ川底にいる夢をみている

食べるにも体力が要るよく噛んで、よく噛んで、飲む すこし疲れる

十日ぶり点滴の管が抜き取られ両手で顔を洗える朝(あした)

病室の窓から毎日見てるのはジャスコのむこうにあるという海

棲むことに慣れ始めてる病室で消灯ののち雨音を聴く

「ご自愛」は優しい言葉梅干しの入った三部粥の味がする


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