恋を語る歌人になれなくて

2016,5月 LINEで送信したメッセージを「それは短歌だよ」と教えてもらったことをきっかけに、短歌な世界に引き込まれて行く。おそーるおそーるな一歩一歩の記録。

未來8月号の歌

八月一日から新しい職に就き、働き始めて疲れ切ってフラフラのヘトヘトの早くも逃げ出したい日々のなか、今月も『未來』が届きました。有り難いことです。

今月は、開いてびっくり!夏韻集の先頭五番手に載せてもらってました。月詠を出すまで何度も迷って自信のもてないまま送ったものだったので、書いた本人が一番びっくりです。選歌後記で大辻先生からいただいた大切な言葉をしっかりとかみしめて、さらに一歩一歩進めて行きたいです。

良かったらお読みください。

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『未來8月号』大辻隆弘選歌欄 夏韻集

遠くから(時にとなりで)見てるだけアポロンのごと光に満ちて

ほろ酔ひの君が誰かと話す声ざわめきのなか聴き分けてゐる

片恋の君が詩歌に棲まはせし恋人よ皆ツチノコであれ

リセットを押しても白木蓮として咲けないままのわたしを写す

夢のなか交はしたくちづけ熱いまま身に宿しをり正午過ぎても

この気持ち伝はることなくゆるやかに消えてしまへば 日傘を閉ぢる

津駅まで後ろの女性らが語る職場の「モリ」の悪口を聴く

無職でも積立貯金の方法をネットで調べる四月末日

薔薇園を抜け届きたる風のなか香りの渦に身をまかせをり

目の前に新芽があふれそよぎ出す緑といふ名をまた好きになる

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そしてそして、「工房月旦」のページで大谷真紀子さんに歌を取り上げていただいています。ほんとうにびっくりしました。有り難いことです。

夏韻集デビューの5月号から

エレベータふわんと揺れて白昼夢ほんとのわたしはここにいるのか

気まぐれにピアノに指を落としたらビル・エヴァンスが降りて来たんだ/森緑


もっともっともっと良い歌を詠みたい。
がんばれー、もりみどー!!!

激アツ伊勢歌話会

昨日は津にて、伊勢歌話会でした。

福岡から夏韻集の漆原涼さんが来られました。連作、圧巻の迫力でした。さらに、評するときの読みの瞬発力と深さが素晴らしく、今月の伊勢歌話会を一層濃密な時間にしてくださいました。ありがとうございます。

わたしの持っていった月詠は、優れた作品がつづく中イタタマレナイぐらいの駄目感を放ち、やはり大辻先生の厳しいお言葉を頂きました。前にもしっかり指摘いただいてたことなのにまだ身につかなくて、「もうそろそろ出来るようにならないと」と言われたとき、ああわたし、もう初心者気取りでいたらあかんのやなあ、と思いました。どこかに短歌矯正ギプス無いかなあ...。無い?あ、そう...。

ひゅっと降りてきたものを掴んでそのまま書き起こしたぐらいの、自分ではとるにたらんと思う歌ほど「これぐらいがいい」と誉めていただいて、「おちをつけたり読者にサービスし過ぎないで、豪胆に詠めばいい」と言われたのが今後の指針になると思います。

ネット短歌についても話題に上がりましたが、わたしが日頃ネット短歌にもやもやしてる理由が整理されたし、大辻先生のご指摘に大きくうなづくばかりで、「夏だ!一番!夏韻集まつり!」という気持ちになりました。←コレガ言イタカッタダケデハ...?

夏休み直前短歌集中特訓と未来7月号

ただいま、夏休み直前短歌集中特訓、実施中。

個別トライさんではありません。毎日ひみつ特訓です。にひひ。。。

月詠も毎月わたわたしながら仕上げてる有り様ですが、

同時進行で別のしめきりや企画に参加することで

ぎゅううう、、、と短歌脳をしめあげてます。

昨日はメタファーと戦っていました。メタファー大戦。

喩をつかうことに慣れていないので、すぐダイレクトな表現になってしまいます。

 

未来7月号、届きました~。毎月きちんと届けてもらえるありがたさを感じつつ、自分の歌を確かめました。自分の歌が「うおー。ほんとに載ってる」という驚きと感激はまだまだ慣れませんが、夏韻集が自分のホームだとおもう気持ちは毎月増すばかりです。

 

大辻先生に、少し前の伊勢歌話会で、おなじ年頃の三重県の女性が夏韻集に入会されたことをお聞きしていたのでとても楽しみにしていました。

 

正しさと意味を求める暴力に立ち向かっているきみはらいおん / 浦田愛子(三重)

 

歌会でお会いできるのが楽しみです。

 

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夢に棲む    森緑 (未来7月号 大辻隆弘選歌欄)


夜もすがら極彩色の夢にゐてオレンジ色の涙をこぼす


夢にゐるわたしは時に王子さま見知らぬ姫を救つたりして


君の血を吸ひ生き延びて朝がくる夢でよかつた よい夢だった


君の血は美味しかつたと言ひたくて夢へと戻るあたたかな午後


言の葉は君に届かずゆらゆらと川面を滑り消えてしまつた


ぐでたまと猿に名付ける人がゐて「いいね」と叫びながら目覚める


白い髪一本ありてああわたし夜中の姿は白猫なのか


びゆんと風吹けども消えぬ夢に棲む十四時間の眠りのあとで


夢をみて眠りつづけて生きながら死んでゐたいと願つてしまふ

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この時は、はじめて旧かなに挑戦して四苦八苦した月詠でした。

最近はちょっと慣れたけど新かなで書きたいこともあるので、どっちも選択的に使えるようにしておきたいです。

 

もはや、「精進します」が口癖のようになっていてイカンイカンと思うのですが、本心なので、今月も精進します。

「夏韻集随一の初心者」を名乗りつづけていると進歩がないので、「夏韻集のじゃじゃ馬」ぐらいの称号を冠することができるようがんばります。

 

『みづつき6』に参加しました

千原こはぎさんの「水」をテーマにした合同短歌集『みづつき6』に参加しています。
コチラからごらんいただけます。

http://kohagi-orz.jugem.jp/?eid=2363

ネットプリントに参加する、が今年の目標のはひとつだったのでクリアできたのはよかったけど、ほかの作品と並んだときの見劣り感にゾッとしたので、もっともっともっとがんばらなきゃー(*_*)と思いました。96人の参加作品のなかでほかの作品と比較すると、現実的で面白みに欠けるのではないか...なんという印象の薄さよ...と反省点ばかり目につきます。



シアトルは雨  森緑

シアトルは雨の街です 歩いてる誰も傘など差していません

防水の効いたアウトドアジャケットのフードをかぶり濡れて歩いた

気が滅入る小雨の下を歩くとき片手にホットコーヒーがある

片言で「ミドリハヤサシクナイヨ」と言うコインランドリーの椅子は硬くて

朝八時ぼうっと暗い霧のなかおたがいの手を確かめあった

元彼の姉さんがくれたグリーンの雨傘はもう錆びてしまった



ここのところちょっと、短歌がぜんぜんできません。もしかして、わたし、短歌つくる方じゃなくて短歌の純粋な読者の方が向いてるんじゃないか、、、と深刻に考え込んだり。

たぶん、いま、よゆうないんだ、わかってる。しかたないけど、あせってしまう。

未來6月号

『未來』が届くと気分がアガる~~~。

先月号から、短歌結社『未來』にデビューした新弟子なので、今月は2度目。10首送った中からぜんぜん載ってなかったらどうしよう、、、とビクビクしながら開封。どうにかこうにか10首載せていただいてました。ありがとうございます。もっともっと精進します。

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『未來6月号』夏韻集(大辻隆弘選歌欄) 森緑

地下鉄にあまたの人が乗っていて誰もわたしを愛していない

この好きとあなたの嫌いをこね回しフォンダンショコラを焼き上げており

春香る緑茶のペットボトルには「国産桜エキスを使用」

BSが映る日が来た父母と中村主水が若いとはしゃぐ

古稀になる母が猛然と食べ進むバースデーケーキ四分のいち

春が来て落葉できない盆栽の渇いた楓もよく水を吸う

オペ室に呼ばれた時に読んでいた文語文法打ち消しの「ず」

帰りたい誰もが優しくしてくれた手すりの冷たい東病棟

にせものの森の香りと知っている緑の湯船で深呼吸する

いちにちのおしまいぐらい正直にヘレン・メリルを聴きながら寝る

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9番目の歌は、自分の名前を詠み込んでみたのですが、ひらがなに開いたほうが露骨じゃなくてよかったかな、と活字になってから思いました。
またいつか挑戦します。

未來 関西批評会に行きました!

初めての関西上陸!即、半泣き迷子!!ひえーぃ。

提出した歌は、

どちらかの性別に○を付けるとき「女」でいいかじっと疑う/森緑

でした。
正直、意味が読み取りやす過ぎるのではないか、などなど迷いましたが、普段聞けない評とくに道浦母都子さんがどう読まれるか知りたかったのです。緊張で息を詰めていたら、道浦さんが「森さん、どんな方なの?どんな方が詠まれたか知りたい」とおっしゃってアワアワしながら挙手するシーンがあったり、「女性なら共感するところのある現代的な歌」と好意的な評をいただき、闘魂注入いただきました。

たぶんわたしが一番の新弟子で、そんなへなちょこ歌をほかの方の優れた歌の中に紛れ込ませてもらうのは気恥ずかしかったけど、次回までには成長していたいなあー。

会の集中してる時間も濃密だけど、ふだんお会いできないお互い遠距離の方やTVの中の歌人さんと思ってた方に「はじめまして」や「お久し振り」ができて、そんな交流が実はすごく幸せだったりします。

わたしみたいに人見知りの上にぽやや~んと抜けてる人間でも、夏韻集や三重県のお姉さんお兄さん方が紹介してくださって新しい出会いがどんどんつながってゆくのは、本当に本当にわたしって前世でどんだけ善行つんだのかしらと思うレベルでまわりのひとに恵まれ過ぎてると思います。有り難く、感謝することばかりです。

何年かして、わたしが夏韻集の先輩的立場になったら(もりみど姉さん??)、先輩方にしてもらったように常にウェルカムな空気で、いっしょに短歌を楽しめるように手をさしのべたりできるような、そんな余裕も持てるようになりたい。短歌は孤独に精進するものだ、でも田舎でひとりきりでは行き詰まる、と悩んでたわたしに、大辻先生も伊勢歌話会もとてもあたたかかった。歌の友や先輩が近くにいてくれる、月に一度は会えるというのは本当に心強いことですもの。

あと、ネットで話すのと違う、生身で会うことで「あ、もりみどは意外と安全」と体感的にわかってもらえたりして良い、というのもあるし、これから先の長い歌人生を共にできる歌友と新たな交流が深まるのは素敵だ思う。この年齢で、まだこんなにわくわくできるなんて、短歌はじめてよかったなあー。


う。なんか、感激のあまり、まとまりが無くなってきてしまいました。

超面白いことになっていた懇親会の様子(酔うてはる黒瀬珂瀾さんにガチ恋相談とか...)はまたいつか......。


【今日のうた】

かぶりつくテリヤキマックバーガーのソースが垂れる これは現実

 森緑『未來5月号』夏韻集

今日はじめてお会いする方に自己紹介すると、「あっ、テリヤキマックバーガーの!」と歌で覚えていただけていました。有り難いことです。
何だかデビューの5月号だけが思いがけず出だし好調のような気がしていて、次号からダメになって行くようで、ああ、ほんと、不安であります。

歌友との時間は

今週平日に名古屋でランチ会があったり、週末に三重県歌人クラブの歌会があったり、先週も伊勢歌話会があったり、あっ、来週は未來の関西批評会があるし、今月はめずらしく短歌なあつまりにたくさん参加できてうれしいです。


歌の友とは、年齢だとか性別だとかいろんなことを飛び越えて、すぐ心をひらいて話せるのは、本当に不思議。わたしは人見知りだし、一匹狼タイプで人を寄せ付けないところがあるのは自覚しているけど、歌の友とはそんな自分のことは忘れて、打ち解けられる。

なんでもないお茶したりするのが、とても大切で貴重な時間。歌の話だけじゃなくて、漫画の話もするし、怪談もする。ネットも便利だけど、わたしにはときどき会える歌友が必要なんだとおもう。

おとなになって友達ができる、それだけでも短歌は凄いのでは...とおもう。生きてるうちは、短歌、つづけていたいなあ。


その...できることなら.........歌を詠む恋人ができて、いつか歌詠み夫婦になれる日が来たら、そんな幸せなことはないだろうなあ~~って憧れる......。



【今日のうた】

見える傷、見えない傷に手のひらをあてられながら見る窓の雨

 田丸まひる『ピース降る』

短歌一周年記念のつもりで応募しました。

短歌研究新人賞の締め切りが迫っております。

ふぇっふぇっふぇっ。
わたしは、十日前に郵送済みです。

短歌はじめてちょうど一周年記念として参加してみたかった、というと身も蓋もないですが、そんな感じです。
締め切り前まで手元に置いていると落ち着かないので「ねばったけどもうここまでやー」というところで送りました。恥ずかしいので誰にも見せてないです。

連作30首の作り方がうまくつかめなくて難儀したので、時々はこれぐらいの連作を習作でつくってみたいなあーとおもいました。


【今日のうた】

月の裏側に光を当てるごとタイムラインを遡りゆく

廣野翔一個人誌『浚渫』「泥、そして花びら」


『浚渫』、廣野さんファンのわたしは通販で買いました。廣野さんのTwitterのツイートにあるリンクから買えます。

「子宮を捨てる」連作にまとめました

昨年秋、入院前から入院中あたりに病室で詠んでいた歌をすこし差し引いてお直しして、連作にまとめてみました。よかったらお読みくださりませ。


☆☆☆☆☆☆☆


子宮を捨てる    森緑


老いた母の運転に身をあずけ病院まで聴くかすれたラジオ

病院の待合い室のチャンネルを韓国ドラマに勝手に変えるな

手術する決心を先に延ばしたく、おうどんのつゆしずしずと飲む

デフォルトで子宮を付けてくれずともわたしは困らず生きられたのに

卵巣も子宮もすっぽり投げ出してそこらの犬にくれてやりたい

最後まで生理は痛い半月後まるごと子宮を切り捨てるのに

人生で最後の生理が終わっても起立して待つ余ったタンポン

手術まであと何日と数えてる傷ひとつない全裸を映す

三日後の手術を思うまっしろなニベアで腹に描く一文字

お隣の見舞いの子らが騒がしい明日わたしは子宮を失くす

麻酔医が松本零士のアニメキャラみたいで消毒前に泣き出す

一瞬の意識の途切れは六時間「寒い」と言いつつこの世に戻る

高熱で英語しか出て来なくなり酸素マスクは外れたままで

朝五時の集中治療室でひとり「おぎゃあ」の声と歓声を聞く

腹を開け石を詰められ投げ込まれ川底にいる夢をみている

食べるにも体力が要るよく噛んで、よく噛んで、飲む すこし疲れる

十日ぶり点滴の管が抜き取られ両手で顔を洗える朝(あした)

病室の窓から毎日見てるのはジャスコのむこうにあるという海

棲むことに慣れ始めてる病室で消灯ののち雨音を聴く

「ご自愛」は優しい言葉梅干しの入った三部粥の味がする


☆☆☆☆☆☆☆

歌トーーク@伊勢歌話会

この前の伊勢歌話会で、大辻先生とふたりでお話できるタイミングがあり、「夏韻集デビューおめでとう」と声をかけてくださって、ひゃあっ、ありがとうございます!ってそうか、まだ最近のことなのに随分いろいろあった気がするなあーとちょっとびっくりしました。

そのとき大辻先生に「短歌はむずかしいですか?」って聞かれて、とっさに「たのしいでっす!!\(^o^)/(Yeah!!!)」と答えてしまったものの、これは問いと答えがねじれの関係だったなあ。。。

正確には「短歌をつくることは難しいし、それをほかの人に読み取ってもらうことは難しいし、ほかの人の短歌を読むことも深い知識と細心の注意と向き合う誠意が欠けたらできないから難しいし、短歌のイベントに遠出するのは困難で難しいし、何年も前から短歌をしてる先輩たちの歌を読んで優れていると感じるとき嫉妬しないようにするのは難しいし、それでもやっぱり短歌は楽しいでっす。\(^o^)/(Yeah!!!)」ということですね。まあ、短縮したら「たのしい」になるんですけどねー。フフッ。

あと、このブログなどでちょこちょこ書いてることについても「書評でもエッセイでも文章を書くのは続けた方がいい」と言ってもらえたので、わーい、これからはちまちま書いて更新頻度あげてこう~って思います。

そのあと、休憩の間にみんな揃ってからも歌トーーク。
うまくなればなるほど苦しくなるよ、と聞き、えーっ!うまくなったらもっともっと楽しくなると思ってたんですけど、、、(゜ロ゜; とびっくりしたり。
どんなにうまくなっても、全然苦労なくぽこぽこ途切れることなく歌が詠めるわけではない、ということを知って、絶望的な親近感というか、希望に満ちた諦念というか、そんな感覚がありちょっとほっこりしてしまいました。


いつも伊勢歌話会には新しい連作を詠んで準備するのですが、今月はあらゆる〆切がわちゃわちゃしていてミッションインポシブルだったので、先月送った未来七月号月詠を持って行きました。参加されてた方々からは「若々しい」、大辻先生からは「ドロドロとしてダーク」などの評をいただいて、ほっとしながらうれしい気持ちでした。

大辻先生に「ダーク」って言ってもらうの、最高におわかりいただいてる安心感があって、もうわたし、「森ダーク」って名乗ってもいいぐらい!!(森永ダースチョコみたいだなぁ...)


【今日のうた】

君の死後、われの死後にも青々とねこじゃらし見ゆ まだ揺れている

 大森静佳『てのひらを燃やす』

『オワーズから始まった。』を読みました(後編)

白井健康さんの『オワーズから始まった。』を読んで、特にⅡ、Ⅲ部で思うところ、考えたところがあったので、Ⅰ部とは分けて書いてみたいと思います。
(Ⅰ部については、前の記事で書きました。よろしければお読みください)

口蹄疫対策にあたるなかで詠まれたⅠ部を前半、Ⅱ、Ⅲ部を後半と、ここでは仮に呼びます。
わたしには、後半のほうが、胸にぎゅっと来る歌が多いので、本には付箋ビラビラで、ここでもたくさん引用したいです。(でもね、引用を読んだことで一冊読んだ気になってもらっちゃあー、困るのだ!)

わたしが、読んでてドキッとした歌を中心に、引用してみます。


電子手帳の(欺瞞)の声の柔らかい彼女と似てるきみを愛した

自販機のボタンをみんな押してゆくどんな女も孕ませるよう

ふたりしてコートを脱ぎ捨て沈むときうっかり鱗を落としてしまう

iPhoneを愛撫している親指とあなたの舌がいつも似ている

ゆうすげとつぶやくひとの唇のおくに一輪ゆうすげが咲く

手漉き紙をいくつも重ね深海にあなたと違う生きかたがある

空き箱の深さがちょうどいいのです何も入れずにあなたを入れる

海風に羽をひろげてわたしたち何も聞かれずただ奪われる

ルナティック、夜中に聞いた話ではおんなと肉を食う楽しさよ


ああ、大人の、成熟した相聞歌というのはこんなにどきどきするのか、と初めて知りました。ときめきます。

最近の短歌は短歌の背後にいるはずの「われ」が希薄になり、大喜利的に大多数に瞬間的にウケて面白がれたらいい、みたいなことを聞き及んでますが、わたしはそのへんのふわっとした短歌が実は苦手です。この本を読んで、わたしの好きなのは読み進めるうち人物像が立ち上がってくるこういう歌なんだ、と改めてつよく思いました。

短歌だし、生身の人間の言葉なんだけど、白井さんにとって造詣が深い現代詩の世界を泳いでやって来た言葉の佇まいのようなものがあり、何度読み返しても新鮮です。

あと、余談ながら、読んですぐ作者の白井さんに実に失礼な質問メールをしてしまったのですが(今となっては超ハズカシイ...)、とても易しい言葉で作者と作中主体の関係と読みについて解説をしてくださった上に、さらに解りやすいレジュメまで送ってくださったのでした。白井さん、ほんとにありがとうございます!

まだまだ未熟者の自分にとって、頭で解ってるつもりでも、存じ上げてるつもりの作者だと特に、作者=作中主体として読み誤ってしまうという事例に出会い、読むときの意識、心がけに一本筋を通せるようにならねばと学びました。


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『オワーズから始まった。』を読みました(前編)

白井健康さんの『オワーズから始まった。』という歌集を読みました。


とても心動かされる一冊だったので、ブログにまとめよう!と思いながら、内容が一辺倒でなく多面的に濃密であるがゆえに、なかなか取りかかれずにいました。


白井さんは、獣医さんで、口蹄疫対策のため派遣され家畜の殺処分をおこなうという体験をされています。本書のⅠ部では、日頃は動物を生かすお仕事をされている方なのに、動物をたくさん、たくさん、殺していかねばならない非情なる現実が、あふれだすように詠まれています。また、タイトルにあるオワーズとは、O型口蹄疫が世界で最初に発見されたフランスのオワーズ地方のことだそうです。

 

引用してみます。


2%セラクタールを投与後に母子の果実を落としてしまう


倒れゆく背中背中の雨粒が蒸気に変わる たましいひとつ


たくさんのいのちを消毒したあとの黙禱さえも消毒される


三百頭のけもののにおいが溶けだして雨は静かに南瓜を洗う


わたしが言いたいことは「おすすめだから読んでみてほしい」の一言につきるのでした。これは間違いない!


その代り、白井さんが当時所属されていた「好日」に投稿されたエッセイを読ませていただいたのですが、わたしだけが恩恵にあずかるのはもったいないと思うので、白井さんに許可をいただいて転載することにしました。



(風韻) 

たましいひとつ     白井健康

六月二十六日から六月三十日までの五日間、宮崎県からの要請を受け、派遣獣医師として口蹄疫防疫作業にあたった。

四月二十日、都農町の繁殖牛農家で発生した口蹄疫は診断の遅れや防疫資材・人員の不足、殺処分の遅れなどから感染が周辺市町へと急速に拡大していった。

五月一日、県は自衛隊への災害派遣を要請。しかし六月十八日までの約二ヶ月間で五市六町の二百九十一戸、約十九万九千頭の牛や豚などの偶蹄類家畜に被害が拡大した。

二十五日、宮崎県庁に到着した私は、木城町都農町での口蹄疫ワクチンを接種した家畜の殺処分を指示された。

二十六・二十七日は経済連肉用牛農場の繁殖和牛六百三十頭の殺処分を派遣獣医師二十一名で行った。梅雨特有のゲリラ豪雨が降り頻るなか、白い防護服を着用しての作業は蒸し暑さのため閉口した。

二十八・二十九日は安愚楽児湯農場の繁殖和牛八百頭について派遣獣医師約二十名で行った。二十八日、木城町真夏日となり暑さのため作業は大幅に遅れたが、翌二十九日は曇り時々雨のなか、体感的にも涼しく感じられ、前日の遅れを取り戻し両日で八百頭の殺処分を終了した。

三十日は都農町藤見埋却場での殺処分作業となった。あらかじめ家畜埋却用の穴が掘られてあり、ここまで牛を運んで殺し、穴へと放り込んで埋めるのである。

次々にトラックで牛が運ばれ、同時に農家の「こころ」も運ばれてきた。それは花束であったり御札やお酒などであり、一時繋留所に飾られた。家族同様に飼育されてきた牛は、ワクチン接種に同意した時点で殺処分宣告を受けたのである。しかも彼らは未感染の健康な家畜なのである。

畜産農家のやりきれない気持ちは容易に察することができた。

やがて、私のところへ四頭の和牛が運ばれてきた。毛艶もよく、農家を出る前に念入りに全身をブラッシングしてもらったのだろう。首には手作りのお守りが架けられていた。 

それを見た私は胸が震えるのを抑えることができなかった。かわいがられていたであろうことは容易に想像された。

雨の降り頻るなか、私は左親指で左側頚静脈を圧迫し、ゆっくりと注射針を血管内に刺し入れ、勢いよく薬液を注入した。数秒の後、一気に地面に倒れこみ、数回の痙攣を繰り返し静かに息をひき取った。同様にして残り三頭も次々に静脈内に薬物を注射した。まだ温かな体温が残るからだに、水無月晦日の雨粒が水蒸気となって立ち昇っていった。

「正しかったのだ」。心のなかで反芻したが涙が止まらなかった。見上げた空が歪んで見えた。

一日の作業を終え、全員で黙祷を行い、防護服の上から隅々まで消毒液を噴霧された。黙祷までもが消毒液で消されてしまうような錯覚を覚えた。


また暑き夏の日はくる埋却地に一面のみどりたましいの色


 六月三十日、宮崎県は殺処分対象だった約二十七万六千頭の家畜の処分を終了した。

 七月一日、夢のような五日間の作業を終え、私は宮崎空港を飛び立った。私にとって忘れることのできない宮崎となった。


白井さん、貴重なエッセイをありがとうございました。

白井さんは歌人というより詩人と呼ぶのがふさわしく思えるような方です。あらゆる人に読んでほしいな、って思います。


そして、わたしとしましては、、、、大変申し上げにくい事実なのですが、、、上記のⅠ部より後半のほうが大好きなのであります!!独特の大人の詩的ワールドが広がっていて、どきどきソワソワくらくらとときめきながら一首ごと読み返し読み返ししながら味わって読み進めました。


そちらについて、明日以降、『オワーズから始まった。』を読みました(後編)としてみっちり書かせていただきまっす!!

 

白井健康『オワーズから始まった。』

https://www.amazon.co.jp/dp/4863852606/